3人に1人が亜鉛が不足?亜鉛の生殖における役割や精子などに与える影響について
公開:2021.06.19 最終更新:2024.05.25
基礎知識不妊と食事サプリメント精子妊娠
こんにちは
桜十字ウィメンズクリニック渋谷院長の井上です。
今回は亜鉛についてお伝えします。亜鉛(Zn)は多くの正常な身体機能に必要な必須微量元素です。体内ではつくられないため、食事から取り入れる必要があります。
亜鉛の不足は人体に様々な異常を引き起こす可能性があり、人間の成長段階での亜鉛欠乏はホルモンの不均衡による成長障害を引き起こし、性腺の発達に影響を及ぼしますが、世界保健機関 (WHO) は、世界人口の3分の1が亜鉛が不足していると推定しています。亜鉛欠乏症には脱毛、下痢、性的成熟の遅延、インポテンス、男性の性腺機能低下症、皮膚病変、脳の認知機能などがあります。
亜鉛は生殖における重要な役割と抗酸化および抗炎症作用があると言われています。また、亜鉛は正常な受精に必要であり、精液中の含有量は血液中の85~90倍、精子細胞を細菌の攻撃から保護することが示されています。
今回、Reprod Sci. 2021 Jan 7;1–6.を参照に亜鉛についてご紹介します。
亜鉛は男性と女性の両方の生殖器官の機能と良質の胚盤胞の作成に不可欠な要素です。また、亜鉛は卵母細胞の減数分裂の主要な調節因子です。マウス卵および胚における亜鉛キレート化は卵母細胞内の亜鉛濃度を低下させ、細胞内活性酸素レベルを上昇、細胞内亜鉛レベルの低下で見られる紡錘体の質の低下を伴う形態変化が観察されています。亜鉛スパークといって受精後の透明帯の亜鉛濃度が300%上昇する現象があり、これは透明帯の硬化をもたらし、結果的に多精子をブロックします。
また、亜鉛は精子の酸化代謝に関与する重要な抗炎症因子です。その他の役割には精子膜の安定化、受精能獲得、先体反応などがあります。精巣で亜鉛はライディッヒ細胞からのテストステロンの生成と分泌に不可欠であり、精子と精子集合体のゲノムの完全性を維持します。したがって、亜鉛欠乏症は血清テストステロン濃度の低下、原発性精巣不全、黄体形成ホルモン(LH)受容体の機能低下、ステロイド合成の低下、および酸化ストレスによるライディッヒ細胞損傷にも関連しています。さまざまな障害や体温の上昇に伴う炎症過程は活性酸素を誘発し、精巣の機能不全や精子の生産の変化にもつながります。
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、18−49歳で亜鉛の推奨量は8mg/日で妊娠したら必要量は増加します。上限量は35mg/日となります。食事では、魚介類、赤身の肉、卵、マメ類、ナッツ類などに含まれ、牡蠣は亜鉛が多い食物として有名です。ベジタリアンの方は亜鉛吸収を高める可能性のある肉を食べないため、低亜鉛血症になりやすいといわれています。また、ベジタリアンでなくとも食事から亜鉛を多く摂取するのは難しく、サプリメントでの摂取をされる方も多いです。当院で取り扱いのある葉酸サプリ「マカナ」には、亜鉛が5.3mg配合されています。葉酸サプリの中に亜鉛が入っていることが多いのでサプリメントを服用するのも良いでしょう。
亜鉛の補給は免疫力を高め、ウイルス性疾患と戦う上で有益である可能性があります。COVID-19 の臨床試験では高用量の亜鉛が使用された報告もあります。妊娠出産だけではなく、抗酸化および抗炎症作用をもつ亜鉛やビタミンC,D、プロバイオティクス(乳酸菌、ビフィズス菌)などCOVID-19対策としてもサプリメント活用してもよいかもしれません。