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頭痛薬の長期的な服用が男性不妊の原因に?

公開:2018.11.22 最終更新:2020.11.12

研究結果男性不妊生活習慣

桜十字ウィメンズクリニック渋谷培養部です。

頭痛薬とイブプロフェン

ついつい飲みすぎてしまった翌日、二日酔いに頭痛も加わるとなると“頭痛薬”に手を伸ばしてしまう方も少なくないかもしれません。街中のドラッグストアなどでも売られている、最も一般的に流通している頭痛薬の中には『イブプロフェン』という抗炎症作用や解熱鎮痛作用などを持つ成分が入っているものがあります。イブプロフェンは頭痛薬だけでなく、市販のかぜ薬や皮膚炎の軟膏にも入っており、医薬品の中でも非常に身近な成分の一つです。

しかしながら、このイブプロフェンの長期的な服用が男性の生殖機能を低下させ、男性不妊の原因になるかもしれないという最新の研究が米国科学アカデミー発行の国際的科学学術専門誌Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (2018); 115 (4) E715-E724に掲載されていましたのでご紹介していきたいと思います。

イブプロフェンが内分泌系(ホルモン)に与える影響

デンマーク・コペンハーゲンのUniversity of Copenhagenとフランス・国立保健医学研究所(INSERM)の共同研究チームは先行研究にて、妊娠中のイブプロフェンの服用が胎児奇形や児の生殖機能に悪影響を及ぼす可能性を指摘していました。また、その原因と考察していたのがイププロフェンを服用することで内分泌系(ホルモン)に異常を与える可能性です。

ホルモンの異常は男性不妊を発症する原因として考えられている一方で、イブプロフェンが成人男性に対しては与える影響についてはほとんど知見が得られていませんでした。

この研究の指揮を執ったDavid M. Kristensen博士はイブプロフェンが成人男性の生殖機能に与える影響を調べるため、治験モニターデータベースに登録されていた18歳~35歳までの健康な成人男性31人をランダムに抽出し、1つのグループ(14人)にはイブプロフェン600mgを1日2回、もう1つのグループ(17人)には偽薬を6週間投与しました。

投与前から投与終了後までの間に、一定の間隔で採血検査を実施して血中のホルモン値を測定したところ、イブプロフェンを投与していたグループでは血中の黄体形成ホルモン(LH)の値が有意に高い値を示しました。
※投与後2週間で23%↑、6週間で33%↑

黄体形成ホルモン(LH)とライディッヒ細胞

LHは精巣内で男性ホルモンのテストステロンを産生する「ライディッヒ(Leydig)細胞」を刺激するホルモンです。男性の生殖機能はこのライディッヒ細胞が産生するテストステロンの値に大きく左右されます。

ライディッヒ細胞の機能が低下すると脳はLHの分泌を増加させてテストステロンの値を一定に保とうとします。そのため、上記の状態が維持されてしまうと、LHが大量に分泌されているにも関わらずテストステロンが低値を示すといった性腺機能低下症が引き起こされます。

これらを踏まえ、Kristensen博士は加えて被験者のライディッヒ細胞の機能低下を探るべく、指標として用いられる遊離テストステロン/LH比を調べました。

すると、イブプロフェンを投与していたグループでは有意にライディッヒ細胞の機能が低下していたことがわかりました。
※投与後2週間で18%↓、6週間で23%↓

以上の研究結果から、イブプロフェンの服用がライディッヒ細胞の機能を低下させ、ホルモンに異常を生じ、結果的に男性の生殖機能を低下させる可能性が高いということが示されました。

精子の “造精機能”そのものに関しては大きな影響を与えない

Kristensen博士は「本研究により、イブプロフェンの長期的な服用が性腺機能低下症を引き起こす可能性が高いことが示された。成人男性において血中のテストステロン値が下がることは、すなわち筋力、筋肉量、性欲の低下に加え、抑うつ、疲労感といった症状を出現させる可能性が高いことも示唆している」と述べるとともに、長期的なイブプロフェンの使用に注意喚起をしています。一方で、本研究では精子の “造精機能”そのものに関しては大きな影響を与えないとしています。

どうしても頭痛がひどい、あるいは風邪気味など必要な時に短期的に服用する分には大きな影響は無さそうですが、何事も過剰に摂るのは止めたほうが良さそうです。