アンタゴニストとMPAによる排卵抑制の違いについて
公開:2019.07.02 最終更新:2020.11.16
研究結果検査・治療法お知らせ
こんにちは
桜十字ウィメンズクリニック渋谷院長の井上です。
採卵を行う際、排卵すると卵を獲得できなくなる可能性が高いため、排卵しないようにLH サージを抑制させる方法があります。
代表的な排卵誘発法
GnRHアンタゴニストは内因性LHサージを抑制し、GnRHアゴニストにより卵成熟を誘導することで、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを低下させ、成熟卵(MII)を回収することができます。
また、黄体より分泌されるプロゲステロンはGnRHの拍動性分泌およびLH分泌を阻害します。メドロキシプロゲステロン17−アセテート(MPA)は合成プロゲスチンであり、高いプロゲステロン活性および抗ゴナドトロピン作用を有します。
MPAは卵巣刺激におけるLHサージの抑制に効果的と報告されています。MPAピークは経口投与の3時間後、半減期は24時間です。アンタゴニストより安価であり、ARTにかかるコストを抑えられます。
アンタゴニストとMPAの比較
今回提供卵を採卵する際、排卵抑制をアンタゴニストとMPAどちらで行った方が良いか両群を比較した報告をご紹介いたします。
2019年5月 Fertility and Sterilty
“Medroxyprogesterone acetate versus ganirelix in oocyte donation: a randomized controlled trial”
この研究の目的は、oocyte donationにおけるガニレリクス(GnRHアンタゴニスト)とメドロキシプロゲステロンアセテート(MPA)の有効性を評価することす。
MPA 10 mg /日とGnRHアンタゴニスト0.25 mg /日を1:1に分けて比較する第IV相無作為化臨床試験です。MII卵数、rFSHの総用量、卵巣刺激中のホルモン値、LHサージ、受精率、生化学妊娠率、臨床妊娠率、進行妊娠率および出生率などを2群間で比較しています。
<結果>
MPA群:86人、GnRHアンタゴニスト群:87人を対象としてGnRHaをトリガーにて採卵。
MⅡ卵数はMPAで15.1個、GnRHアンタゴニストでは14.7個と有意差がありませんでした。
刺激日数、rFSHの総量、両群変わらない結果でした。
エストラジオールピーク値は両群で有意差を認めませんでした。
両群ともLH サージは抑制されていましたが、GnRHアンタゴニストの方がLHの下降が顕著でした。
受精率、初期胚の形態学的スコア、移植胚のスコア、最良好胚盤胞の割合は両群変わりませんでした。
提供卵子による胚移植を行ったところ、MPA群において臨床成績が有意に悪かった。
多変量マルチレベル分析を行ったところ因子調整後、生化学妊娠両群に有意差はありませんでしたが、臨床妊娠で2.17倍、進行妊娠で2.13倍、GnRHアンタゴニストの方が妊娠率が高いことがわかりました。
しかし、生児獲得率については両群に有意差はありませんでした。
<結論>
GnRHアゴニストトリガーを使用した提供卵を採卵する際、排卵抑制剤としてのMPAはGnRHアンタゴニスト(ガニレリクス)を使用した場合とMII卵数は変わりませんでした。 しかし、MPA使用はGnRHアンタゴニストと比較すると臨床成績に影響がでる可能性があります。
当院ではMPAもGnRHアンタゴニストによる採卵も行なっております。
この報告だけでは何とも言えませんが、排卵抑制剤の種類で妊娠率が変わる可能性があります。さらなるエビデンスの高い報告が待たれます。